【獣医師監修】犬のてんかんは食事で変わる? 栄養管理とMCTの役割を解説

犬 てんかん

愛犬がてんかんと診断され、不安を感じていませんか?
イヌのてんかんは薬物療法を中心とした管理が基本ですが、最近では食事療法も注目されています。
近年の研究では発作のコントロールを補助する可能性が示唆されています。
特に、中鎖脂肪酸であるMCT(脳のエネルギーを安定させる脂質)を含む栄養管理は、てんかんをもつイヌのQOL(生活の質)を改善する可能性が示唆されています。
今回はイヌのてんかんと栄養管理についての論文をもとに解説していきます

監修獣医師

川本 紗弓
川本 紗弓
獣医師・ペット栄養管理士

日本大学 生物資源科学部 獣医学科卒業。東京都内の動物病院で臨床医として勤務した経験を経て、毎日の食事が犬猫の健康に大きな影響を与えることに気が付き、栄養学の道に進む。専門は犬猫だが、鳥も大好きで、家族のシニアインコを溺愛。

イヌのてんかんとは

イヌのてんかんとは

てんかんとは、脳の神経が過剰に興奮してしまうことで起こる病気です。
てんかんの原因は大きく2つに分類されます。
脳腫瘍や脳炎など、明確な原因がある「症候性てんかん」と、原因が特定できない「特発性てんかん」です。
特発性てんかんは全体の半数以上を占め、遺伝的要因の関与が示唆されています参照(1)

てんかんの症状はイヌによって異なりますが、発作の種類は大きく2つに分けられます。
全身が痙攣する「全般発作」と、脳の一部の過剰興奮によって起こる「部分発作」です。
部分発作の場合は、痙攣まではいかなくても、口をくちゃくちゃしたり手足がピクピク動くなど様々な様子が確認されています。

参照(1):Current understanding of epilepsy in dogs Podell M et al., 2016

イヌのてんかん管理における食事の重要性

イヌのてんかん管理における食事の重要性

従来、イヌのてんかん治療は薬でのコントロールが中心でした。
しかし、近年は適切な食事管理による中鎖脂肪酸(MCT)の摂取が、発作の頻度を減らせる可能性が示唆されています。

薬だけでは発作を十分にコントロールできない「難治性てんかん」は20%~30%あることが報告されていて、とくにこのようなケースでは食事療法を含む多角的なアプローチが推奨されます参照(1)。

今回は以下の論文を参考に、てんかんにおける食事管理の重要性やMCTの役割について解説していきます。

参照(2):A randomised trial of a medium-chain TAG diet as treatment for dogs with idiopathic epilepsy Law TH et al., 2015

参照(3):Anticonvulsant mechanisms of the ketogenic diet Bough KJ & Rho JM., 2007

脂肪酸とは?中鎖脂肪酸(MCT)の特性について

脂肪酸とは?中鎖脂肪酸(MCT)の特性について

脂肪酸とは、脂質を構成する基本成分です。
炭素が鎖状につながった構造をしていて、この炭素鎖によって脂肪酸は以下のように分類されています参照(3)。

  • 短鎖脂肪酸
  • 中鎖脂肪酸
  • 長鎖脂肪酸

ドッグフードには動物性脂肪や魚油、植物油などが使用されることが多いですが、含まれているのはほとんど長鎖脂肪酸です。
中鎖脂肪酸はココナッツオイルなどに含まれますが、意図的に入れない限り豊富に含まれるものではありません。
短鎖脂肪酸についてはフードに含まれることはほとんどありません。

中鎖脂肪酸(MCT)の特性

MCTの最大の特徴は、長鎖脂肪酸とは代謝のプロセスが大きく異なることです参照(3)。

長鎖脂肪酸は炭素鎖が長い分、消化に時間がかかります。
これに対してMCTは素早く消化吸収され、効率的にケトン体(脂肪から作られるエネルギー)へと変換されるという特性を持ちます。
具体的には以下のような代謝が起こります参照(2、3)。

  • 素早く消化・吸収:分子が小さいため腸から速やかに吸収される
  • より速くエネルギーに変換:直接肝臓に運ばれて、より速くエネルギーに変換される
  • 迅速なエネルギー産生:細胞内のミトコンドリアにスムーズに入れるため、迅速なエネルギー産生が可能
  • 効率的にケトン体へ変換:長鎖脂肪酸よりも効率的にケトン体へ変換されやすい

ケトン体による役割

ケトン体による役割

①神経伝達物質(脳の情報を伝える物質)のバランス調整

脳の中の興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)の活動を抑制し、抑制性神経伝達物質(GABA)のはたらきを促進することで、発作を起こしにくい脳環境を作り出すと考えられています。

①神経伝達物質(脳の情報を伝える物質)のバランス調整

②神経細胞の安定化

細胞膜が安定することで異常な電気活動による発作が起こりにくくなると考えられています。

③エネルギー産生効率の改善

脳は通常、ブドウ糖を主なエネルギー源としていて、エネルギー不足は発作の引き金になる可能性があります。
MCT摂取での迅速な消化吸収により、ケトン体を素早くエネルギー源として使うことができると考えられています。

④抗酸化作用

てんかんでは脳内の酸化作用が強く起こっている状態です。
ケトン体自体も抗酸化物質として働くことで、発作の抑制に関与すると考えられています。

⑤炎症の抑制

慢性的な神経の炎症はてんかんの悪化リスクとされています。
ケトン体は脳内の炎症性物質の産生を抑制して、神経炎症を軽減すると考えられています。

ケトン体による食事管理の有用性

ケトン体による食事管理の有用性

特発性てんかんのあるイヌに対してMCTを豊富に含む食事を3ヶ月与えた研究があります参照(2)。
その結果、一部の症例で発作頻度の減少が認められました。
この研究では、MCTを与えたイヌの方が、通常の食事を与えたイヌよりも発作頻度の改善が有意にみられました。
この研究では抗てんかん薬とMCTの併用による、発作抑制作用の相乗効果が示唆されています。

また、ペットオーナーへのアンケート調査では、MCT食のイヌのQOLが向上した、という報告も多く寄せられています参照(2)。
発作頻度の減少だけでなく、発作後の回復が早いことや、発作の重症度が軽くなったという声もありました。

食事管理は継続がポイント

食事管理は継続がポイント

てんかんがあるイヌの食事療法で重要なのは、継続性です参照(2)。
短期間で中断すると十分なコントロールにつながらない可能性があります。

代謝の適応には時間が必要

ある研究では、MCT食の効果が現れ始めるまでに数週間がかかることが示されています参照(2)。
最初の1ヶ月では発作頻度に大きな変化が見られなかったイヌでも、2~3ヶ月目に顕著な改善が見られたケースが報告されています。

これは、脳のエネルギー代謝が徐々に変化するためです参照(3)。
通常ブドウ糖を主なエネルギー源としている脳が、ケトン体を効率的に利用できるようになるまでに時間がかかるためと考えられています。

食事管理でのコントロールを最大限に引き出すためには、少なくとも3~6ヶ月の継続がおすすめです参照(2)。
個体差もありますが、焦らず根気よく継続しましょう。

食事管理の重要性の共有

家族全員が食事管理の重要性を理解し、一貫した管理を行うこともポイントです参照(1)。
療法食を与えているにも関わらず、おやつを自由に与えていると、ケトン体産生のバランスが崩れる可能性があります。
とくに、炭水化物の多いおやつには注意が必要です。
過剰な炭水化物摂取はケトン体産生に影響する可能性があります参照(3)。
おやつを与える場合はMCTと似たコンセプトのものを探したり、かかりつけ動物病院に相談したりしましょう。

段階的な食事変更

急激な食事変更は消化器症状を引き起こす可能性があります参照(2)。
新しい食事への切り替えは1週間ほどかけて、ゆっくり行うようにしましょう。

まとめ

まとめ

イヌのてんかん管理における食事療法、とくに中鎖脂肪酸(MCT)を含む栄養管理は、科学的根拠に基づいたアプローチです。
MCTを適切に摂取することで効率的にケトン体を産生することが、てんかん発作の症状改善につながると考えられています。

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